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鷲くろ文字SP!(長いよw [→しんり・くろ・ぽとふ]

■絵(追記)
■ひとり(お話)
■新ブログ変更♪
■きずな(お話)
■ねこしょうかい★
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ログサイトこちらw
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■絵(追記しました)
七夕絵を描きたくて頑張ってました(>w<///
雷が酷くてメイン更新に間に合わなかったのが辛かったですw

120707_10x96.jpg
希紫ルオン さんのブログ『海星』はこちら
くろさんと鷲庵さんvvv
星に願いをv

 ずっと一緒にいられますように

イラストが間に合いませんでしたorz 後で追記更新します(^^; 雷が悪いんだ~(><;
_____

■ひとり(お話)
前記事のお話の続きです。
くろさんとしんりのお話。

『ひとり』

 千龍寺を出てから一人歩く。
 少しでも遠く離れるように。 でも離れたくなくて足が進まないのか思う程には離れない。

 昔の自分なら…本体の自分だったら、それこそ幾つかの国境さえ越えられる程の時間を歩いて。
 気が付けばどこかの街の駅前まで辿り着いていた。
 くたくたに歩き疲れていて、駅前の噴水脇に腰掛ける。

 自分の中は酷く虚ろで、人の形をした抜け殻みたい。

 目の前を通り過ぎる景色のような人の流れを眺めながらぼんやりとここがどこなのか考える。
 意識はあるけど思考は纏まらず、この先どうするべきかを考えても考え続ける事も出来なくて。
 せめて己の行く先だけでもと考えてみて、自分にとって帰るべき場所は、鷲庵と蝶子の居るあの家になっていたんだと思い知る。
 …どこへ行けばいいんだろう。



 目が覚めたらどこかの家の部屋の中。
 白木の天井が見える。
 お日様の匂いのするフカフカの布団から起き出して部屋を見渡せば、見たことのある造り。
 障子を開けると縁側があって、その向こうには隅々まで手入れの行き届いた広大な庭。

 …ここは…

 その場所に思い当たればパタパタと駆けて来る足音。
「くろさん!」
 言うや否やそのままの勢いで抱きつかれて一緒に倒れ込む。
「くろさん! くろさん! くろさん! くろさん!!!」
 倒れ込んで尚、抱きついたままその子供は俺の名を呼ぶ。
「しんり」
 名前を呼んで、柔らかで真っ直ぐな白緑の髪を撫でる。


 見覚えのある白木の天井は、夜の原手前にあるしんりの館。
 どうやってここへ来たのかは記憶にないけれど、しんりの話ではどこかの駅前でへたり込んでいた俺を見つけて連れて帰ってくれたらしい。
「知らない男の人が二人でくろさんを連れて行っちゃいそうだったんです!」
 と身振り手振りを添えてその時の事を説明をしてくれた。
「くろさんはぼーっとして、フラフラとおぼつかない足取りで手を引かれるままだったし」
 頬を膨らませ、人差し指を立ててお説教をするように続ける。
「知らない人に着いて行ったりしたらダメなんですよ!」
「…そうか。すまん」
「私の事も、見忘れちゃダメですよ…?」
 しんりは深い森の緑を思わせる瞳にジワリと涙の粒を浮かばせて、もう一度ギュっと抱きついた。


 それから暫くしんりの館で過ごす。
 自分の全部がバラバラになったみたいで普通の生活もままならない。
 例えば、時間さえも今のこの身にには決して一定に流れない。
 僅か数分、数十秒の時の流れが過ぎないかと思えば、起きて身支度を整えて一休みと縁側に腰掛けてふと気が付けば辺りが赤く夕暮れに染まっている事もある。
 それに倣うように意識も思考もどこか遠くを上滑るよう。
 今、目の前の事を考えようと思っても、まるでノイズが走るみたいで集中して考えを纏められない。
 困ったものだ。

「くろさん?」
「ん?」
 今もしんりに声を掛けられて正気に戻る。
 いつからそうしていたのか、部屋から庭を眺めたまま止まっていたらしい。
 心配そうな顔のしんりが懐からハンカチを取り出して差し出す。
「?」
 その行動の意味が分からず困惑していると、しんりはハンカチを差し出すのをやめてそっと俺の頬へあてた。
 …ああ、そうか。
「ありがとう」
 頬笑みを返してハンカチを受け取り知らぬ間に流れて落ちる涙を拭った。


「くろさん! お散歩しましょう」
 今朝もしんりが気を利かせて俺を散歩に連れ出してくれた。
 動くのが嫌と言う訳では無いのだけれど、何をどうしていいのかまだ自分で分からなくて…こうして連れだしてくれるのはとても助かる。
「すまんな、しんり。…ありがとう」
 しんりは何暮れにつけて話し掛け、散歩に連れ出し、あるいは静かに隣に座り俺の事を気遣ってくれているのだ。
「…私は、くろさんがここへ帰って来てくれて、嬉しいです」
 先に立ち俺の手を引いて広い庭を歩く。
「くろさんが、悲しいのは…嫌だけど、それでも、ここに居てくれるのは凄く嬉しいです」
「そうか…」
 しんりの言葉に穏やかな笑みが浮かぶ。
「私は、くろさんの事が大好きなんですよ? くろさんは、私にとって特別な人なんです」
「そうなのか?」
「はい! そうなのです。くろさんが来て、初めて自分もお外に…街にお出かけしてもいいんだって、知りました」
 にこにことしながら広い池のほとりを歩く。
「識るだけじゃなくて、知っておいでってくろさんに背中を押して貰ったんです」
「そんな大した事はしてないぞ?」
「ふふ♪ でも、私にはそうだったんです♪」
「そんなもんか?」
「はい♪ そうですよ。…だから、ごめんなさい」
 嬉しそうおに笑った後、しゅんとうな垂れて謝るしんり。
「くろさんは…とっても悲しいのに、私は喜んでしまうんです。…ごめんなさい」
 ぽんぽんと軽く叩くようにしんりの頭を撫でてやる。
「しんりには、コレが見えるか?」
 首元へ手を当てて問えば、少しの間じっとそこに見えない何かを見つめるしんり。
「…何かが、ぐるぐると回っています。最初と最後が繰り返していて、その先には繋がらないようになっています」
「しんりには、やっぱり見えるんだな」
「? はい」
「これは『俺と千龍寺の縁』だ」
 それを聞いたしんりはビックリした顔で俺を見る。
「俺にとっての千龍寺たる鷲庵に切らせて、俺が先に続かないようにこうして繋げた」
「そんな事したら…ッ」
「…うん」
 泣きそうな顔で俺を見るしんりにどうにか笑顔を向ける。
「俺と千龍寺の縁は…千龍寺での未来は無くなった」
 その言葉を聞いてしんりの大きな深緑の瞳から涙が溢れだす。
「それでも、最後に護る事が出来た」
 ぽとりと、俺の頬からも涙が伝い落ちた。

 その場所に想いを馳せれば触れられそうなほど鮮明に思い出せるのに、その存在は酷く遠くて希薄で…もう、手の届かない場所になってしまったのだと思わざるを得なくて。
 辛くて寂しくて、心の中がごっそりと抜け落ちてしまったような喪失感だけで俺は自分がここに在る事を実感する。
 でも、もうどんなに願っても、望んでも、帰れない。
 帰るべき道を俺は無くしてしまった。
 己で閉じてしまった。

「…ッ…」
 涙が止め処無く溢れて落ちる。
 こんな涙は人に見せてはいけないものだ。
 見せるべきじゃ無いと思うのに、止める事も出来なくて…しゃがみこんで声を殺して泣く。

 離れた今でも、俺はお前を。
 お前は俺を護ったと信じている。

 だけど、やっぱり淋しくて、苦しい。

 …逢いたい。
 逢いたいよ、鷲庵。


 背中からそっと抱き締められた。
 小さな体で一生懸命守ろうとするように、しんりが抱き締めてくれていた。
「…すまん。直ぐに落ち着」
「いいんです。泣いていいです」
 感情の波を切り離して落ち着かせようとする俺を、しんりは優しく宥める。
「いいんです。オトナだって、ちゃんと泣かないと、ダメです。…きっと、ちゃんと泣かないとダメなんです」
 優しく背中を撫でながら、諭すように続ける。
「こうしていれば、くろさんのお顔も見えないから…」
 しんりの声も震えていた。
 きっと、泣いてくれているのだろう。

 悲しくて、淋しくて、どうにもならないけれど。
 こんな時にでも俺は本当に幸せ者なんだろうと思う。
 千龍寺でも、ここでも、なんて大切に思って貰えているのだろう。
 有り難くて、何も返せない事が申し訳ない。

「ありがとう、しんり」
 少しの間だけ泣いて…泣いた分だけ心が軽くなった気がした。
 だから、清々しく深呼吸しながら顔をあげて礼を言う。
「ありがとう」


 手を繋いで屋敷へと戻る。
「くろさん、私、男の子になります」
「そうか」
「はい。それで、う~んと強くなって、くろさんを守りますね」
「…それは…ありがたいな」
「本当ですよ? だから、くろさんは私のお嫁さんになって下さいね」
「…それは…返事出来ないなぁ」
「じゃあ、うんっと強~い女の子になって、くろさんのお嫁さんになります」
「強いって、ぽとふくらいって事か?」
「はい♪」
「…それも、ちょっと…」
「えぇ~っ」
 頬を膨らませながらも笑顔だ。
 俺も、しんりも。


 まだ、淋しく辛いと思う事は多いだろう。
 けれど。
 俺はきっと大丈夫。

 今はまだ、思い出せば涙になるけれど、いつかきっと大切な思い出になるだろう。
 これからの俺を形作る大切な基礎の一つになるだろう。

 忘れる事は無い、大切な感情。
 それを抱いたまま、俺は幸せになるから…

ーーー
終わり

鷲庵さんとお別れしたけど、くろさんも頑張ってます。
好きだから、幸せになるから。
_____

■新ブログ編集♪
先日公開したらくがきくろさん更新用にブログのタイトルを変更しましたw

10x96blog.png 『白銀月虎』
 BLブログですw
 暫くは鍵無し公開しますが、その内鍵付きにしようかと思います。
 今の所こちらで公開してるイラストと大差ない感じです(笑)
 寄って貰えると喜びますw
_____

■きずな(お話)
・鷲庵さんお借りしましたvvv
希紫ルオン さんのブログ『海星』はこちら
・ラズさんお借りしましたvvv
凌 さんのブログ『玩具筐―Spielzeugkiste―』はこちら

くろさんと鷲庵さんの再会までのお話。
ラズさんとしんりに背中を押して貰ってます(^^///


『きずな』

 俺が千龍寺を離れてからまだ半月も過ぎていない。
 月日と言うのは自分が感じてるほど早く流れてはくれないらしい。

 それでも、己の内に空虚を抱えながらでも、俺はどうにか笑えるようになった。
 それは間違いなくしんりのお陰だろう。
 一日中、それこそ起きている間中と言って良い程の時間をしんりは俺の傍に寄り添ってくれている。
 疲れるだろうと問えば健気にも首を振り、自分がそうしたいから、一緒に居たいから傍にいるのだと答えた。
 そんな優しさに触れれば己も早く元気になろうと思う物だ。
 …それに。
 この胸の空虚は、この先も決して埋まる事は無いのだから…早く慣れてしまおう。


「じゃあ、出掛けてくるな」
「はい…」
 しんりが余りに心配そうな顔で見送るから、これから顔を出そうと思う店のアドレスをメモに書いて手渡す。
「ここに出掛けてくる。…顔を出すだけだし、直ぐに戻るつもりだ」
 そう伝えるとコクリと頷いて笑顔を見せてくれた。
「はい。いってらっしゃい、くろさん」
 俺の為に自分の時間の殆どを費やしてくれているしんりに、自由な時間を僅かでも返したかったからもあるけれど、急に千龍寺を後にしたから、それ以来ラズの所にも顔を出していないのだ。
 勿論毎日顔を出してた訳じゃないけど、プッツリと所在不明になったから心配してるかも知れない。
 取りあえず今の所在を知らせようと門をくぐり街へ出た。


「くろちゃん!!!」
 ひょっこりと店の扉をくぐり顔を出せば、奥から飛び出すみたいにラズが出迎えてくれた。
「久しぶり」
「ああ! ああ! 良かった! 怪我はして無い? 無事?」
 やっぱり心配させていたのだろう。
 緋色のアイラインを引いた切れ長で涼しげな目元を細くして、綺麗な海の色をした瞳で俺を頭の先から指の先まで心配そうに眺める。
「ん。大丈夫だ、怪我は無いよ」
「良かったわ~」
 笑顔で答えるとラズは心底ホッとした口調で抱き締めてくれた。

 勧められるまま奥のソファに腰掛けて出されたお茶に口を付ける。
 でも近況を上手く説明出来なくて、今は千龍寺を出て知り合いの所で世話になっているとだけ伝える。
 ラズは何となく察してくれたのか、それ以上は何も訊ねたりしないでいてくれた。

「でね、…あら、ヤダ。お茶がないワ。お代り持ってくるわね」
 綺麗に結いあげてある濃いピンクの長く垂らした前髪を揺らしつつカップとソーサーを盆に乗せてラズが席を立つ。
 気を遣ってくれているんだろう。
 ラズは務めて明るく楽しく自分の近況を俺に話して聞かせてくれる。
「ありがと」
 新しく湯気の立つ紅茶を差し出してくれたラズに礼を言う。
「でも、ホントに良かったワ。気がつかない内に私くろちゃんに何かしちゃったかと思って」
 と 自分も向かいに座り直して冗談だと分かるようにコロコロと笑った。
「…嫌いになんかならないよ。ラズはホントに良いヤツだから、友達で居てくれて良かった」
 手を伸ばしてラズの頭をポンポンと叩くように撫でてやる。
「ありがとな、ラズ」
「も、もう! やぁねぇ、くろちゃんったら」
 ラズは照れ隠しに腰掛ける際に俯いて乱れた髪を整え、何気無い仕草で指の背で目許を撫でつつ身を起こした。
 俺が突然姿を見せ無くなったから、何か気に障ったのではないかと心中穏やかでは無かったのだろう。
 そうでは無かったと分かって、ラズはホッとした穏やかな笑顔で顔をあげた。
「ああ、でもホントに無事で良かったわ」
「何か…心配するような事でもあったのか?」
 無意識だろうけれど何度も無事を確認するから、心配するような何かがあったのかも知れない。
「ん~、くろちゃんが無事だから関係ないと思うんだけどね」
 そう前置きをして続ける。
「知り合いからどこかでナントカって…ほら、くろちゃんが言ってた影…楼? とか言うモンスターが大量発生して、どこかのお寺の御坊様が大怪我をして入院したと聞いたのよ」
 影楼で…怪我?
「でも、くろちゃんは無事なんだし、私ったら心配し過ぎね」
 苦笑したラズの声が遠い。

 勿論影楼退治を担う宗派は千龍寺だけじゃない。
 怪我をしたとしても、それが俺の知り合いだと考える方が大袈裟だ。
 そう。
 きっと、考え過ぎ。
 だって、鷲庵は凄く強いんだ。
 それに良寛が居るんだ、無理はさせたりしない。
 蝶子だって一緒に居る筈だ…。

 なのに。
 なのに、どうしてこんなに不安な気持ちになるんだろう?

「ごめん、ラズ」
 体が震えて、上手く言葉が出ない。
「俺、行くね」
「えっ? ちょ、ちょっとくろちゃん!?」
 不安で、不安でいてもたってもいられない。
 心の奥底がざわついて、遠くからでいいから鷲庵の無事な姿を確かめたい。
 鷲庵は、千龍寺に居る筈だから。
 無事に、元気に居る筈だから。
 遠くから、せめて。

「ちょと、くろちゃん?」
 フラフラと店を出て千龍寺へ向かおうとして、立ちすくむ。
「道が…」
 ぽろぽろと涙が溢れて頬を伝い落ちる。
「分からない」
 あんなに通い慣れた道だったのに、千龍寺がある事は分かってるのに、そこへ辿り着く事が出来ないと感じた。
 …縁が 無いから 行き着く事が出来ない。

 立ちすくんだまま顔を両手で覆って泣きだす。
 もうどうしていいのか分からない。
 会いたいのに。
 こんなに逢いたいのに。
 どうやって会いに行けばいいのか、分からない。

 鷲庵
 会いたい。
 会いたいよ…

「ッ! くろちゃんっ!」
 慌てて追いかけて来てくれたラズにギュっと抱き締められた。
「ラズ…会いたい。鷲庵に逢いたい。こんなに会いたいのに…会えない…」
 抱き締められたまま泣きじゃくる。
「俺はあの家に続く道を無くしてしまった…」
 ラズが抱き締めたまま俺の髪を撫でてくれている。
「じゅあん。じゅあん…」
 会いたい人の名前を呼ぶしか出来なくて。
 溢れ続ける涙と一緒に、その名を呼ぶ。
 何度も、何度も。

「わかったわ! 私に任せなさいっ、その入院した人の事確かめて来るから、少しだけ待ってて頂戴」
 ラズに手を引かれてもう一度店の奥のソファに腰掛けたのを確認してラズは店の奥へ姿を消し、暫くしてメモを片手に戻ってくる。
「ええとね、『千龍寺』と言う宗派の、名前までは分からなかったけど、ビャッコの方だそうよ」

 鷲庵だ。

 千龍寺には鷲庵以外にもビャッコの僧侶は沢山いる。
 だけど。
 ラズの言葉を聞いて、俺はそう思ってしまった。
 再びどうしたらいいのだろうとパニックになりかける。

「ごめんください」
「は、はぁい!」
 可愛らしい声が店の入り口から掛けられて、ラズが接客へ向かう。
「くろさんっ」
 ラズと一緒に戻って来たのはしんりだった。
 駆けよって来たしんりは俺の泣き顔を見て隣に座り、手を握る。
「大丈夫ですか? くろさん」
 心配そうな顔だ。
 大丈夫だと言ってやらねばならない立場だと言うのに…今は返事さえままならない。
「鷲庵さまに、会いたいですか?」
 口を開こうとすれば嗚咽になりそうで、ただ頷くしか出来ない。
「それが…ごめんなさいね。病院までは特定出来なくて…もう少し時間があれば分かると思うんだけど…」
 申し訳なさそうなラズの声。
「病院? 鷲庵さまはお怪我をなされたんですか?」
「確認は取れていないのだけれど、くろちゃんはそう言うわ」
「そうですか…」
 しんりは暫く何か考えていたようだけれど、意を決したように顔をあげる。
「鷲庵さまがどこに居るのか、私が探します。辿り着いた先が千龍寺だったらご無事と言う事だし、そうでなければ会いに行けばいいですよ」
 言いながら懐から術符を取り出し術を掛ける。
「天令! 識界! 燕辿!」
 しんりの指先で紙片…術符が燕に姿を変えて飛び立ちクルリと店内を回る。
「行きましょう! くろさん!」
「でも。縁が…」
「くろさんには無くても私にはあります。それに…」
 先に立ちあがり、繋いだ手を引いて俺を立ち上がらせる。
「必要ならどうとでもします」
「え?」
「はい?」
 しんりは自分が何を言ったのか自覚が無かったのか俺の疑問符に疑問符を返した。
 術から生まれた燕がツイと店の外へ向かう。
「あ、ほら! 急ぎましょう、くろさん!」
「あらあら、はいっ」
 ラズが燕が出られるように扉を開くとしんりに連れられてそのまま表へと出る。
 空では燕がクルリクルリと円を描きつつその輪を少しづつ大きくしている。
「かぼたん! 来て、乗せて下さい」
 しんりが表の道をトントンと指先で叩くとそこから緑が芽吹いて瞬く間にツタが伸びカボチャが一つ実ったかと思うと見る見る内に大きくなり…そこに現れ残ったのは車輪のある何とも味のある呑気な顔をしたジャックオーランタンとか言うカボチャのモノノケ。
 腕にあたるのかスルスルとツタを伸ばしてしんりと俺を器用に抱えて走り出す。
 (ラズにもツタを伸ばしたけれどサラリと避けられた)
「では、ラズさん、後ほどご連絡に伺います!」
「ありがとう! ラズ!」
 満足に挨拶も出来ないままツイと方向を決めて飛び去る燕を追ってカボチャ化けが走り出した。
「いってらっしゃい! くろちゃん!」
 遠ざかるラズの声は、最後に「幸運を!」と続いた気がした。



 しんりの燕が幾つも並ぶ病室の窓の一つへ消えた。
 鷲庵はあの部屋にいるんだ。
 そして、ここに居ると言う事は…ラズの情報通りならば、鷲庵は酷い怪我をしている。
 会いたい。
 鷲庵に逢いたい。
 息も出来ないくらい、そう思う。
 なのに…会うのが怖い。
 鷲庵が怪我をしているなんて、信じたくない。認めたくない。
 怖い。
 もしも、万が一…

「くろさん」
 しんりに呼ばれて振り返る。
「鷲庵さまはこちらにいらっしゃるようです。私は…くろさんは、くろさんの心のままにあればいいと思うのです」
 カボチャ化けを背に大地へ立ち、真っ直ぐに俺を見る。
「今日が終わりの日だとしても、くろさんが心穏やかで過ごせますように…」
 しんりの深い森の色の瞳が不思議な気持ちにさせる。

 人は生まれおちたその日から、死の淵に立ち生きている。
 今日は無事でも明日が無事とは限らない。
 それが世界だと、とてもよく知っていたのに、暖かく優しい場所で過ごして忘れていた。
 甘やかで穏やかで、それは遠くの物だと思ってしまった。
 間違えてはいけない。
 取り違えてはいけない。
 世界と別れるその日その瞬間を受け入れるには、己の感情を、行動を確かにしておかねばならない。
 心残りに囚われたりしないように。

「ありがとうしんり」
 両腕を差し延ばしてしんりを抱き締める。
「心から感謝する。俺は、己の心に従う」

 この先がどうなるかは、誰にも分からない。
 一度離れた身がもう一度受け入れられるとも思わない。
 それでも
 俺は鷲庵に逢いたい。
 会いたくて、会いたくて、愛しくて。
 このままでは身動きが取れない。
 鷲庵のその身が心配で、居ても立っても居られないのだ。

「はい、くろさん」
 しんりは腕の中で返事をした。
「行ってくるよ」
「いってらっしゃいです」
 しんりから離れ、深呼吸してから病院の入口をくぐった。




「今日もくろちゃんは病院?」
「はい」
 にこにことラズさんに返事をする。
「鷲庵さまはやっぱりお怪我で入院されていて…ちゃんと治療はしてるけど、まだ目が覚めないそうです」
「…そう…」
 そっと声のトーンが下がるラズさん。
 くろさんが心配してるに違いないと思ってくれたんだと思います。
「でも、千龍寺のお家から通ってます」
「え?」
 少しだけ驚いた声。
「病院で千龍寺のお家の人に会って、一緒に帰ったんだそうです」
「そう…なの?」
「はい」
 ちょっと不思議そうなお顔をするラズさん。
「縁は…いくつでも作れます」
「!」
「袖触れ合うも…、と言うくらいですから」
「そ、そーゆうモノなの?」
「もちろん完全に縁が切れる事も、消える事だってありますよ? でも、形を変え意味を変え、もっと深くなる事だって可能なんです。きっと」
 ラズさんに話しながら、ぽとふさんが教えてくれた事を思い出す。

 縁は…酷くあやふやなキッカケのようなもの、あるいは漠然とした未来のようなものでもありますわ。
 けれど人は、そのあやふやで不確かな縁を大切に結び、育てる事が出来ます。
 お互いに時間を掛け、信用と信頼と愛情で繋がれた確かな縁を、絆と言うのです。

 片方だけでは決して形にならない、大切な縁…絆。
 私とくろさんにも、くろさんとラズさんにも、それはきっと結ばれていると信じてる。

「それに、くろさんは『千龍寺』との縁を切ったと言いました。鷲庵さまとの縁を切ったとは言いませんでしたから」
 ラズさんの目が点になる。
 ぽとふさんの言った言葉、私も最初に聞いた時は目が点になりました。
「ふっ、あははは」
「ふふ、あはは」
 ラズさんと私、どちらとも無く笑いだし、お願いを書いた短冊を手に店の外へ出る。
 七夕の笹に付けて貰った今日のお願い事は、

 くろさんが笑ってくれますように。

 だから、早く起きて下さいね、鷲庵さま。




 お見舞いに持って来た綺麗な花を花瓶に挿して鷲庵の眠る病室へ戻る。
 今日も沢山話した。
 鷲庵は眠っているから、一方的に自分の事ばかり。
 楽しかった事とか、嬉しかった事とか…鷲庵と離れて淋しかった事とか。
「ふふ、毎日こんなに一緒に居られるなんて…千龍寺に居た時より長いんじゃないか?」
 笑いながら話しかける。
 返事は無く、鷲庵は眠ったままだ。

 穏やかな顔で眠る鷲庵の頬を撫でながら、やっぱり零鷲のイトコと言うだけあって作りは綺麗なんだなと思う。
「今まで沢山無理して夜更かしして来たから、しっかり寝るのもいいけど、寝溜めって出来ないらしいからな?」
 笑いながら話し掛け、目が覚めても最低限自分の足で立ち、動けるようにしておいてやりたいから腕や足のマッサージをして、ストレッチもさせる。
 体のどこにどんな風に負荷を掛けて動かせば筋肉を動かせるのか、自分の体で知っているから助かる。
 まさかこんな風に役に立つなんて思っても居なかったけれど。
 怪我の負担にはならないように気を遣いながら、ゆっくりと時間を掛けてしっかりと運動させてから良く絞った濡れタオルで体を拭いてやる。
 キチンと寝巻を整えて布団を掛け、席を立つ。
 部屋の窓際の小さな洗面台でタオルを洗って干すのだ。

 ふと病院の白い壁が薄紅色に染まっているのに気がついた。
 窓の外を見れば綺麗な夕焼けに空が染まっている。
 白い雲が淡い薔薇色と水色に、雲の端は金色の光に縁取られ…。
 夕陽の薄紅色は眠る鷲庵の上にも降りかかる。

 …鷲庵の紅い瞳が見たい。
 その声が、聞きたい。
 こうやって、触れられるだけでも幸せな事だと思うけれど…。
 逢いたいよ、鷲庵。

「夕焼け、凄く綺麗だよ? 鷲庵」
「…うん…とても…きれいだ」

 夕焼け空を眺めたまま話しかけたそれに、思いがけず返った返事。
 ドキドキしながら振り返ると、ベッドの上で横になったまま、鷲庵が俺と、その向こうの空を見ていた。

「…綺麗だね。…一緒に見られて嬉しい」
 嬉しくて、胸が一杯だ。
「おはよう、鷲庵」
 溢れて来る笑顔のまま、鷲庵を抱き締めた。

ーーー

終わり
我慢出来なくて、追いかけて。
くろさんは鷲庵さんと再会しました(><///
この先もまだ暫く苦労があるけれど、それでも、幸せ。

▼ちょっと追記。
お話では時間経過を詳しく書いていませんが、実際くろさんが病院へ通い出して数日~数週間。
又は数カ月と言う時間が流れています。
上手く纏められなかったので、潔く割愛しました。
鷲庵さんはずっと眠っていても、くろさんが訪れた日は体調が良いのですv
眠っていても、分かるんですね(^^///
眠る鷲庵さんの手を握り、撫で、ずっと話しかけてるくろさんでした。
▲追記ここまで。

七夕だったので、どうしても頑張りたかったんです!←ゆきじがw
_____

■ねこしょうかい★
猫写真の紹介です(笑)<別名:親ばかコーナーです(>ワ<///
neko07-04
neko07-04 posted by (C)ゆきじ
腕まくにゃしてあげる(あっぷ


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コメント 3

コメントの受付は締め切りました
希紫ルオン

わww 綺麗な星空と幸せそうな二人ww
二人の表情もとってもやわらかくて幸せそうでww
よい雰囲気です。
互いを感じながら、星に願いを、ですね。
イラストなのですが、コメントをするまえにブログへアップさせていただきましたね。
連絡が後になってしまいまして申し訳ないです。

お話、某所で拝見したお話に追加がw
くろさんとラズさんのやりとりw 拝見できてうれしいです。
しんりちゃんとラズさんと、素敵なお友達ですね。
大好きなくろさんの為に、がんばれって願いも込めて、二人とも一生懸命に手をかし、背中をおすのでしょうねぇ。
そして、鷲庵とくろさんとの再会。
意識がない鷲庵に色々と話しかけてくれるくろさん。
>「ふふ、毎日こんなに一緒に居られるなんて…千龍寺に居た時より長いんじゃないか?」
本当、その通りですよね。
そして最低限自分の足で立ち、動けるようにとマッサージまでしてくださってありがとうございます。
体まで拭いてくださって、くろさん健気ww

鷲庵の目の覚まし方が、とても自然で、すごく素敵です。
夕焼けの情景。そしてくろさんの想いw

鷲庵、目を覚ます前に、光の中から腕が差し出されて。
優しい声で「鷲庵」と自分の名を呼ぶ声が聞こえてきて。
その手をつかんで声の方へ向かえば、目に飛び込んできたのが夕焼けと、夕焼けを見つめる美しい人の横顔だったようです。
>「…うん…とても…きれいだ」
という言葉は、夕焼けとくろさんに対して発した言葉だと良いなと思いつつ。

夕焼け、一緒に見れて嬉しいです。
そして、くろさんの「おはよう、鷲庵」の言葉が嬉しいw

くろさんが来てくださる日は体調がすごくいいんですよねww
くろさんが甲斐甲斐しくお世話をしてくださるのと、くろさんのぬくもりを感じてw

お話、ありがとうございました。
by 希紫ルオン (2012-07-07 22:30) 

凌

わーっっ!!!!
ララララズが文章に…!!!
というより、くろさんと鷲庵さんカップルの話に関わることができて、めちゃくちゃ嬉しいです><
もう、ほんとに大好きなカップルですっ////
らぶらぶあまあま…v
BLブログでのお二人のいちゃつきを、心から楽しみにしています!
そして、今回ゆきじさんの小説でラズを使っていただいて、私も小説に挑戦してみたいと思いました。
やはり、文章だと世界観がはっきりするというか、キャラクターが動いてステキだなぁ、と。
まだまだ未定ですが、文章を書くことになったら、くろさんもお借りしたいと思っています^^
ではでは乱文失礼しました!
by (2012-07-08 04:07) 

ゆきじ

■希紫ルオン さま
ありがとうございます♪
七夕絵のお持ち帰りと早速のご紹介感謝ですvvv
二人一緒に満点の星空の下、幸せな時間です♪
お話、ようやくくろさんが鷲庵さんに再会しました(^^///
書きたい所まで一気に書いたので取りあえず、書くのはここまでかな?
後はのんびり落書きとか出来たらいいなと思いつつ。
…思いつつお弁当ネタ思い付いたとか言ってみたり(笑)
ラズさん、今回くろさんがすっかりお世話にv
くろさんの事を心から心配してくれる素敵なお友達です♪
そうやって背中を押して貰って、鷲庵さんと再会して…眠っているけれど、お顔が見られて触れる事が出来て、幸せです。
マッサージ、最低限の筋肉量の確保が目的だけど、他にも目に見えて筋肉が落ちていくのを見るのが怖いと言う気持ちもあるんじゃないかな。
お話を書こうと思い立ったシーンに薄薔薇色の夕焼けに染まる部屋があったのです。
ここが書きたいが為に書ききったとか言う噂(笑)
> 鷲庵、目を覚ます前に、光の中から腕が差し出されて。
> 優しい声で「鷲庵」と自分の名を呼ぶ声が聞こえてきて。
> その手をつかんで声の方へ向かえば、目に飛び込んできたのが夕焼けと、夕焼けを見つめる美しい人の横顔だったようです。
鷲庵さんの眠りの先までくろさんが追いかけちゃいますね(^^///
正しくは、奥底に眠る鷲庵さんがくろさんに逢いたくて、そんなイメージを送っているのかもしれませんv
> >「…うん…とても…きれいだ」
> という言葉は、夕焼けとくろさんに対して発した言葉だと良いなと思いつつ。
> 夕焼け、一緒に見れて嬉しいです。
> そして、くろさんの「おはよう、鷲庵」の言葉が嬉しいw
ここのセリフイメージは正しくルオンさんと同意見vvv
だったらいいなぁと思いつつ書いてました(>v<///
一緒に同じ風景を、綺麗な夕焼けを眺める事が出来て、本当に良かったですv
ようやく目覚めてくれた鷲庵さんにはやっぱり「おはよう、鷲庵」ですよね(^^///


■凌 さま
ありがとうございます♪
ラズさんお借りさせて頂きました★
くろさんを心から心配してくれて、バンバン動いてくれてとっても助かりましたv
ラズさんの事は「凄くいいやつなんだ」と鷲庵さんに話していると思います(^^///
ラブラブあまあまは書いてて楽しすぎます~vvv(笑)
BLブログ(白銀月虎)ものんびり更新しますね~♪
数年描き貯めたラフがあるので、ボチボチ色を入れて紹介出来たらいいなと思ってますv
で!
わわわvvv
凌さんのお話!
今からとっても楽しみです(>ワ<///
お話は書くのが大変だけど、人物設定が一番分かりやすくて好きです。
お借りするにもお話や漫画とか、行動や思考の分かりやすい物があると参考にしやすくて助かります♪
絡みやすいと言うか、接点を探しやすくなるので(^^///
おおv★
くろさんお借りvvv
もう、お好きなだけ振りまわしてやって下さい~(^^///
楽しみにしてますvvv


by ゆきじ (2012-07-09 01:29) 



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